6章 古典気体のクラスター展開(4)

あまりにTeX打つのが面倒でだいぶ間が空いてしまったが、まあ気にせず読み進めていきたい。ここら辺から現実の気体に適用できるということで面白くなってくるのだから。張り切っていこーー。


さて今まで用いてきたφ線だが、分子間相互作用を記述する、Lennard-Jonesポテンシャル*1や、剛体球ポテンシャルにより相互作用する粒子径には用いることができない。これは不便なのでこの点の解決法を見よう。この場合の困難は、
 \int \phi_{12}\mathrm{d}v_{2}
といった積分が発散することにある。実はこの困難は簡単に回避される。すなわち、べき乗に関する和を先に取ってしまえばよいのだ:
 \sum_{\nu = 1}^{\infty}\frac{\phi_{12}^{\nu}}{\nu !} = e^{\phi_{12}}-1
この右辺はMayerのf関数と呼ばれるもので、φの定義より f_{ij} = e^{-\beta v_{ij}}-1である。expの収束とべき乗の発散の速さは比べるべくもないので、体積積分が発散することはなくなる。


さて、覚えているだろうか。古典気体分子同士の相互作用による理想気体からのずれは、Wという関数により特徴づけられたのだった。今回定義したf関数を用いればWは
 W = \sum_{k = 1}^{\infty} \frac{\beta_{k}}{k+1}\rho^{k}
と書かれる。ここで \beta_{k}
 \beta_{k} = \frac{1}{k!}\int \mathrm{d}v_{2}\cdots \mathrm{d}v_{k+1} \sum \Pi_{k+1\geq i > j\geq 1}f_{ij}
で定義され、規約クラスタ積分(irreducible cluster integral)と呼ばれる。この計算も、クラスターの計算によく似た図形により行われるが、f線は2点間のφ線のすべての本数の和をとったものと同じであるから2点間に現れる線は今回の場合はすべて1本線である。規則の詳細については割愛。

状態方程式

Wが求まれば状態方程式が求まる:
 \frac{pV}{Nk_{B}T} = 1- \sum_{k=1}^{\infty}\frac{k\beta_{k}}{k+1}\rho^{k}
歴史的には不完全気体の状態方程式は
 \frac{pV}{Nk_{B}T} = 1+B_{2}\rho + B_{3}\rho^{2} + \cdots
という形に表され、このような形の展開をビリアル展開(virial expansion)という。B2、B3をそれぞれ第二、第三ビリアル係数と呼ぶ。*2

 e_{L}を使う方法

これまで論理の流れとしては、φの体積積分の収束性を仮定したうえで計算をすすめ、積分の前にφのべきにの和をとることによりf関数を得たが、実は e_{L}を用いることでもっと簡単に計算ができる。 e_{L}はexponentialの1つの文字に関する2次以上の項を無視する関数であり、具体的には e_{L}^{x} = 1+x e_{L}^{x+y} = (1+x)(1+y)などが成り立つ。
いま、 exp \phi_{\alpha} = 1+f_{\alpha}であるから、
 \frac{Q}{V^{N}} = \langle \Pi_{\alpha} (1+f_{\alpha})\rangle = \langle e_{L}^{f_{1}+f_{2}+\cdots + f_{M}}\rangle
となる。6.2節で現れた \frac{Q}{V^{N}} = \langle e^{\phi_{1}+\phi_{2}+\cdots +\phi_{M}}\rangleとよく似ていることに注目。 e_{L}はじっさい通常のexponentialとよく似た計算規則を持つために、計算はほとんど同様に進行する。ただ、異なるのは2次以上の項を落とす演算子をLで表したとき
 \langle f_{\alpha}^{\nu_{\alpha}}f_{\beta}^{\nu_{\beta}}\cdots \rangle_{c} = \langle L f_{\alpha }^{\nu_{\alpha}}f_{\beta }^{\nu_{\beta}}\rangle
と置き換える点である。これは、f線が2点間にただ一本しか引かれないということに対応している。従って、φをfで置き換え、すべてのνを1とおくことにより、本節と同等の結果を得ることができる。

*1:習ったはいいものの授業以外で使う機会が今のところない

*2:完全な余談であるが、ビリアルというのはクラジウスによる造語で、ラテン語のvis(力)が元になっている