ハルロック

まずこのマンガを取り上げなくてはならない。

ハルロック(1)

ハルロック(1)

電子工作が身近にある女の子が主人公の半田ごて愛にあふれたストーリー。ArduinoやRaspberry Piといった最新のシャレオツ弱電ガジェッツを駆使しつつ、センサや人工知能を取り入れた工作に勤しむのである。作中に出てくるのはどれも工作というよりは発明に近く、興味がそそられる。電子工作まんがときいて、はじめに思ったよりずいぶんマイルドで面白いなという感想。
主人公の名をはるちゃんという。もう幼馴染の高専生ロクくんがでてくる。基本的にはほのぼの漫画であるが、電子工作がアクセントになっている、くらいのもんである。初めて読んだとき、はるちゃんの服が、襟の形とかけっこう細かく意識されて書かれていて、この手のまんがにしては珍しいと思った。調べてみると元専業主婦の女性が描いていた。現在第3巻まででていてこの4月に次巻が出るらしい。



まんがはさておき、最近考えていることがある。
ランダウ流体力学を読んでいて、次のようなnoteを見つけた。

It is useful to note that the velocity of sound in a gas has the same order of magnitude as the mean thermal velocity of the molecules.
(L. D. Landau and E. M. Lifshitz, "Fluid Mechanics" 第64章)

分子速度と音速の値は確かに近い。少なくとも温度に対して同じ依存性を持っており、違っているのは有効的な自由度を体現した比熱比の分ていどである。しかし、だからといってこれらの量が直接的に関係しているかというと話は別である。
「分子運動の遅い・速いと音波を直接結びつけようとすると、話がおかしくなる」というのが、思うところである。音波は一秒間に空気を1000回以上も揺らすが、これは気体にとっては「十分遅い」のであり、音波を考える際に分子運動を考えることは、異なる時間スケールを混同して考えることになってしまう。
具体的に検討してみる。流体の連続の式と運動方程式から、よく知られた純粋に流体力学的な議論により c^2 = \left. \partial p/\partial \rho \right)_{\mathrm{S}}が導出される。
cは音速、pは圧力、ρは密度である。添え字のSは断熱的な変化であることを表す。右辺は熱力学的に計算可能な量であり、例えば理想気体の状態方程式 p = \rho RTから容易に計算される。歴史上初めて正しく音速の導出を行ったのはラプラスポアソンである。もしかしたら彼らは空気中の音波の伝播が断熱的であると、導出を通じて初めて知ったのかもしれない。けっきょくこのような仮定が測定値をうまく説明したというわけである。彼らは音速の測定から比熱比γを推定したのであるが、それはまた別の話なのでいまはスルーしよう。

さて状態方程式を用いたが、これは言うまでもなく平衡状態の気体について成り立つ方程式である。ということは音波の伝播の過程において気体の圧力伝播は準静的であると言ってよさそうである。これが上で述べた、音による振動が気体にとって「十分遅い」ということの意味である。
ただ、途中で入れた断熱性の仮定についても気を付けなければいけない。気体の圧力変化は音波の振動に比べて遅いものであるが、流体粒子間の熱交換の時間スケールに対しては十分早い必要がある。

まとめると、音波の伝播という物理現象に登場する時間スケールは

  1. 音波の周期  T
  2. 圧力平衡状態の緩和時間  \tau_{\mathrm{p}}
  3. 熱緩和時間  \tau_{\mathrm{t}}

の三つであり、通常教科書で見かける取り扱いでは次の大小関係が仮定されていることについては意識しておくと良さそうだ。
 \tau_{\mathrm{p}} \ll T \ll \tau_{\mathrm{t}}


もう少し精密化した方が良さそうなところもあるが、一先ずこれが結論としてはまとまっているのでいったんここで議論を閉じておく。