量子効果のパワー

それで昨日書いたように,ニュートンは音波の伝播に関して等温過程を仮定したために計算値が実験と整合しなかった。どちらかというと現実の音波というのは断熱的なようで,準静的過程を仮定し等エントロピー過程とすればいい感じの値が出ることが分かっている。だから本当は音圧による流体の仕事を考え,それによる温度の上昇というのを考えなくてはいけなかった。これについては理想気体についてはポアソンの式というのが知られていて,それは
 pV^{\gamma}={\rm const.}
という形をしている*1。ちなみにγは比熱比。このポアソンの式だが,高校あたりで初めて見たときは非常に気持ちが悪かった。大学に入って再び熱力学の授業で出くわしたときも,等式の両辺で次元が意味不明なことになっているので気持ち悪さは晴れなかったのだが。納得するだけなら微分方程式を解く過程で係数が指数部分に持ちあがるというからくりを見ればよいので,導出を追ってみたらなんとなく飲みこめていたという感じの式だった。このポアソンの式はいくつか等価な表現がされているのだけど,めんどうなのでWikipediaから引っ張ってきた式をそのままを使って進めると
 \frac{p}{\rho^{\gamma}}={\rm const.}
 \frac{1}{\rho^{\gamma}}\frac{\partial p}{\partial \rho})_{S}=\gamma \frac{p}{\rho^{\gamma+1}}
 \frac{\partial p}{\partial \rho})_{S}=\gamma RT
となって,結局等温的な場合と比べるとΔp/Δρの値はγ倍,音速は \sqrt{\gamma}倍だけ大きくなる。γの値は気体によってまちまちだけれど,空気についてはまあ,二桁くらいの精度で1.4としてよかろう。昨日求めた「等温音速」は294.3 m/sだったので,これに \sqrt{\gamma}=1.183を掛けると,348.2 m/sが出てくる。これは先述の実験とも,ばっちり整合する。

やや余談だが,実は実験と整合するという言い回しは正しくないかもしれない。上では様々な量の値を仮定して音速を導いた。それは例えば比熱比γだって,2原子分子の等積モル比熱がc[V]5/2であることとマイヤーの式という特殊な式c[p]=c[V]+Rが成り立つことを使って「だいたいこんなもんだろう」とあたりを付けたにすぎない。何が言いたいのかというと,音速の測定から物性値がわかるということだ。あるいは,virial係数など,分子ポテンシャルに起因した系のミクロな情報もわかったりもする。実験においては測定量と既知量というのは量的な力関係から決まることが少なくない。MOSのような系では,量子ホール効果がすぐに6桁〜に及ぶ精度で量子化されたりするのだけれど,例えば比熱などの物性値は連続値の測定だから,その桁数はどうしたって量子効果のそれに比べれば劣る,ということがどうしてもある。

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%82%A2%E3%82%BD%E3%83%B3%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87