中性子の実験

ウィーン工科大学の長谷川さんのグループによる,「小澤の不等式」の実証実験が一般紙上をにぎわせている.ヒッグス粒子が見つかった!みたいなニュースに比べれば,小澤の不等式というのは花に欠けるというか,それほどインパクトを与えるものだと思っていなかったのである意味驚きだ.一般メディアの影響力というのはすごくて,僕も非物理系の人からあの実験ってどういう意味なの?と聞かれたりする.そんな時僕は量子情報の授業で聞きかじったばかりの小澤の不等式を頑張って説明しようとするのだけれど,なかなか難しいものだと感じてしまう.そもそも測定とは関係なしに物理量が揺らぎを持つという考え方を伝えるのが難しい.これを納得してもらうにはどうしたらしいのだろう.最短経路で量子力学のエッセンスを学ぶためにはどうしたらよいだろう?


今回の実験は中性子の操作によって実現されたものらしい.これを読んでふと,中性子実験に関係する疑問を思い出した.ちなみに小澤の不等式とは何も関係がない.中性子ビームは,物性研究においても非常に有用であって,中性子の回折を利用すると結晶の構造などを解析することができる.たとえばX線による回折像を使った研究と変わりないと理解している.さらにこの中性子ビームはスピン偏極したものを利用することで,物質内部の磁化構造まで見えるというのをよく聞く.じゃあそのスピン偏極した中性子ビームを生成させる方法は?というところがよく理解できない.実験の人は外部磁場をかけることでスピン偏極中性子ビームを作るらしいんだが,世の中には角運動量保存則というものがあり,それだけではスピン偏極は起こらない.それは例えば格子なんかの環境と相互作用・緩和する機構がなければ絶対に起こらないものだと思うのだけど.中性子同士の非弾性衝突あたりが怪しいと思っているのだけれど,これが正しいのか答えてもらったことというのは今のところないのだよなあ.