- 作者: 三中信宏
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/07/19
- メディア: 新書
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歴史は科学たりうるかという問いから始まる本書。筆者の答えはyesだ。再現性のない歴史がどうして科学たりうるか不思議に思うかもしれないが、これはアブダクションと呼ばれる推論の方法により可能になる。アブダクションは演繹、帰納に続く第三の推論の形式である。対立する複数の「物語」の優劣を決定する、経験的テストを備えた方法である。この方法は数学的な定式化がされており、最節約性をキーワードに尤度(モデルの最適性)が議論される。最節約性というのはオッカムの剃刀と同義のものであって、アブダクションの正当性が拠ってたつところの経験的テストとして理論に入っている。系統樹はアブダクションと非常に深い関係にある。系統樹は物の由来と隠れた関係を表す一つの言語である。由来は歴史と言い替えても差し支えない。
個々の人間は生来の性質として、ヒトが進化の過程で獲得してきた分類思考をする能力を備えている。このような分類思考は物事の表層の特徴を捉え、分類するという非常に直感的な感性に頼った方法である*1。筆者はこれを系統的なものの見方と対立する概念、相容れない概念であるという。前者が自明(ア・プリオリ)であるのに対して後者は経験的にしか得ることのできない視点であることからもわかる。しかし「私たちは本質主義に対してナイーブであってはな」らないのであって、分類思考に囚われてはいけない。
げにおそるべきは分類なり。(95ページ)
この本の面白いところは概念的なところで話が終わらないところだと思う。簡単な具体例を挙げて実際に系統樹を構成している。またこの際に生じる数学的な困難*2や、その暫定的解決法*3にも触れる。さらに最新のネットワークモデルについても触れており非常に興味深かった。
筆者の教養を感じさせる文章が随所にあって非常に刺激的だというところもまた外せない。(あっ、カバー裏にセフィロトの樹がかいてある。。。)