仮説

「自明」とは何を意味するだろうか。たぶん数学ではまた独特の用法なんかがあって,そのうちの一部には代数の講義でお目にかかることができる。そういう厳密に意味が用意された用法の他は,字義通り「自ずと明らか」と言えるほど簡単な推論を指すこともあるだろうし,trivialという単語の二つ目の意味を取って「とるに足らない/つまらない」という事をややスラング的に意味したりするものと想像する。でもまあ,数学については,あまり考えたことがないのでこれくらいでやめるとする。
本題と言えるほどちゃんとした内容ではないのだが,それでは,物理では「自明」というのはどういう意味で使われるのだろうか。思いつく意味として三つあげる。

  1. 物理的直観から明らかな結果
  2. 物理的考察を用いない結果
  3. とるに足らないつまらない結果

3は数学の場合と同じなので良いとして,1と2は相反するもののようにも思える。1が意味するのは例えば,波動が干渉という現象を示すことを前提とし,電子が波動としての性質を持っていることを認めた上で,二重スリットの実験においてスクリーン上に干渉縞が現れることなんかを指す。計算せずとも「そうなんだろうなー」と結果が事前に想像されて,実際にやってみるとそうなるということである。もちろん,定量的に評価するのは直観からだけでは無理だろうが,支配方程式の形を見れば関数形の想像がついてしまうことは多い。2は学生時代に友人が使っていた(ように思う)用法で,要するに「同値変形でたどり着ける結果は自明」とする立場である。思いつくところでは例えば,振り子の問題なんかがある。一様な重力場での振り子の運動というのは厳密に解が求まっていて,これは楕円関数で書くことができる。問題が設定されれば,数学的な知識は多少必要とするだろうが,あとは同値変形で解くことができてしまう。2の立場だとこういう難しい計算は「自明」ということになる。例えばここに,「振幅が微小」という条件を付けるとする。すると近似的に,振り子の運動は単振動となり等時性など思いもしなかった性質を示すようになる。つまり同値変形によって演繹される自明な結果から,物理的な考察により普遍性を見出すことができる。こういう目で見ると,物理学上の大発見の多くは須く非自明である。新たな概念が,既存理論の延長線上にないことを考えればこれは当たり前なのだが。