電気分極2

先の記事で「電気分極現象では変化量だけが重要だ」と言いましたが、ここで一度分極の絶対値を定義しようとしてみましょう。
電気分極の話が出るとき、高校なんかでよく扱われるのがクラジウス・モソッティのモデルというやつです。例えば水分子は酸素原子の、水素原子に対する電気陰性度の大きさのために全体として電荷の偏りがあります。このような1ユニットの集まりとして分極している物質のバルクの分極を定めようというのがこのモデルの狙いです。

このモデルは、分極ベクトルを持った1ユニットがはっきりと分別できるなら正しいと言えます。例えば上に挙げた水分子の例だとか。しかしこれが結晶になるともっとずっと微妙な問題が立ち上がってくるわけです。
よく知られているように並進対称な系の状態関数は波数ベクトルと呼ばれるベクトルkで対角化されます。その関数はブロッホ関数と呼ばれて、系の周期を持った関数u(x)を用いて e^{ikx}u_{nk}(x)とかけるわけです。この式を見てわかるように、系全体に広がった波動関数を持つわけですから、これは上で見た水分子の場合とは異なっています。これは、系が周期を持った繰り返し構造になっていることに起因しているわけですね。このような系で分極を定義しようとしても、そもそも1ユニットがはっきりしていないためにうまく行かない。無理やり P=\int_{cell}dr r\rho(r)と定義することもできますが、この量は一般にcellのとり方によってしまう。下の図において、黒い分極子を考えるか赤い分極子を考えるかでバルクの分極ベクトルが異なってしまう。

この困難はどうやって解決されるのでしょうか。また次に続く。