ポーランドでの出来事

学会でポーランドに行ってきた。東欧に足を踏み入れるのはこれが初めてだった。東欧と言うと民族主義的というイメージがこれまであったのだが、幸いにも今回の旅でそれを感じることはなかった。ちょうど開催していたEURO2016をテレビ鑑賞している人たちの悲鳴がホテルに響き渡っていたというのはあるが…(ポルトガルに延長戦負け)
ポーランドは18世紀に3分割され国が地図上から消滅するという憂き目を見た。後進的な封建制が災いし、各貴族が隣接する大国と各々の利害から結託した結果のことという。また20世紀にも独ソによって占領を受けた不幸な国でもある。そんな土地であるから、無知からくる地雷を不意に踏むのも怖かったので、念のため歴史について勉強して行ったのだ。実際に訪れてみると農村部へ行くと特に牧歌的で美しい風景の多い、豊かな農業生産力を持つ国という印象であった。また、人々はみなルールをきっちりとよく守る。車を運転する人も歩行者によく気づかい、道を譲るなどの細やかさのある人々であった。

学会では、各国の研究者たちが集まり最新の研究状況について報告しあう。小さい業界であり、その分野で研究を行うほとんどすべての人が一堂に会する場と言ってもよい。僕は今回が初めての参加だったのだが、その活発さに強く感銘を受けた。僕自身は1年半も前に取ったデータについての発表であり、諸事情から現在では僕は別のテーマを抱えている。道半ばにおいて、言わば志折れた状態での発表であったが、先端を行っているいくつかの国から激励をもらったのはうれしかった。同時に、研究の評価軸は決して一元的ではないという、組織においては忘れられがちな事実について再確認することができたので良かった。
研究をやめたことについて、フランスでPLをしている研究者が非常に怒っていた。正確に言えばやめたわけではなく、別の研究者に引き継いだわけだが、片手間でできるようなテーマではないということである。そりゃそうなのだが、彼には怒る理由がある。ヨーロッパにおいては協調が基本なのだ。経済においてもそうであるし、研究においても協調の重要性は論を俟たない。日本が協調することにより、業界全体が盛り上がり、様々な面で研究の遂行もしやすくなる。なのに日本は手を貸さないというのか。こういう誘因じゃないかと思う。
それからもうひとつ、中国の台頭は、話題として外せない。非常に大きなリソースをつぎ込んで、先進的な研究をしている国からシステムを丸ごと(ともすればブレーンごと)購入する作戦らしい。それでもこれまでのと全く同様のやり方ではなく、研究例の比較的少ない測定方式への転用を見ている。多少ひねりを入れてくるあたりが本当に賢い。数年もすれば、一線で成果を出し始めるのだろう。こういう大技はなかなかまねできない。一般道を行くのと、航空機を利用するくらい効率が違う。こうなってくると正面から勝負するのはかなり難しい。後進のメリットを生かすためには、動き出す前に頭を振り絞ることが必要なのだろう。