エジソンも言っているように発明というのは「必要」とは切り離せないもんです。僕は技術も似たようなもんだと思っているのですが、理学部の研究室内で数式をこねくり回してるだけではそれはなかなかわかるもんじゃないとも思っています。
そこで、とあるセミナーに参加してきました。MITの主導するD-Labの方々だとか、BoPビジネスに従事してらっしゃる方々のお話を聞いてみたいと思った故。ええと、いま偉そうに"BoP"なんて言いましたが、僕自身この言葉を知ったのはついここ2,3日のことです。そのくせに企業・法人向けのセミナーにひょっこり現れるなんてことは無謀とも言えるわけですが・・・まあ何事も最初は仕方ないですから良しってことでw。
さてBoPですがこれはBase of the Piramidの略で、要するに途上国の貧困層のことです。あえて具体的に定義するなら「年収三千ドル以下の所得層」ということになってるみたいですね。このような途上国において必要とされるテクノロジーの開発、さらにそれをマーケティングとして展開していくにはどうしたらよいのだろうか、というのが先のセミナーのテーマでした。
印象に残っているのはKopernik | Technology Marketplaceの中村さんの話です。中村さんははじめに、BoP向けテクノロジーの例をいくつか挙げてらっしゃいました。たとえば安全な水へのアクセスが保障されていない人というのは世界中に12億人もいるそうです。彼らは汚染された水を飲み下痢をし、ひどい場合には死に到る。彼らに安全な水を供給するにはどうしたらよいか、何が必要とされているのか?という問題意識から出発して発明されたのがlifestrawという製品でした。これですね。このlifestrawは要するにフィルターつきのストローで、このストローを通して水を飲めば大部分のバクテリアを除去することができるという発明です。値段は一つ当たり6ドルだとか。それから仮に井戸水を利用できるといっても、その運搬が重労働になっている人も大勢いるわけです。20キログラムもある水桶を頭に載せて20キロの道を行く。これが女性が水を汲みに歩く平均距離だというから驚きです。そこで、こういった不便を解消する例として転がして50リットルの水を運搬できるQドラムなる発明なども紹介されていました。
しかし、これらの技術が途上国に浸透するために克服するべき困難が複数あるといいます。まず途上国が抱える問題点が二つあります。第一は、途上国の人が、そのような技術の存在を知るすべが無いこと、もう一つは、これらの商品が彼らにとって手が届かないほど高いことです。また製品を生産する企業側の困難としてはそれらの製品を行き渡らせるための流通ルートが無いことです。こうした問題を解決するには企業・支援団体・途上国に存在するNGOなどの密な関係が必要となります。要になるのは互いにフィードバックを与え合うところだと言います。Kopernikはこの三者を結びつける役割を担う、と。
この市場において日本企業、とくに中小企業は何ができるのか、というのが中村さんの話の一つのテーマでした。現在BoP向けの商品は数多く存在しますが、日本発のテクノロジーが生きているものは無いのだそうです。日本の中小企業の持つ創造性、きめ細かさ、技術力を生かすことができないかというお話でした。日本が強い分野って言ったら何でしょうかね。ナノテクなんかが生かせれば、という話でしたが。


発表全体を通して「なるほど、こういうことをやっている人が世の中にはいるのか」と純粋に勉強になりました。また、痛いほど感じたのは彼らの問題意識のあり方です。文章にすることはなかなかできないのですが「まずは必要を身で感じないと始まらない。そのためには現地にしばらく住み込むことも厭わないぜ」という意識が皆の間で共有されていることとでも言えるんでしょうかね。新鮮でした。でも、そんな人に囲まれた会場にいるのは、なんだかすっげー緊張してしまいましたねw。
逆にイマイチ実感としてわからなかったのは、製品に求められるデザイン性の話です。必要を満たすだけでは浸透しないということです。たとえば現在先進国で普及しているカーボンファイバーを利用した義足(人の足の形を模していない高性能な義足)は途上国では決して普及しない。彼らが求めるのは完全に人の足の形をした義足なのだ、という話です。これは自分には、なんとなくしかわからない。このあたりが自分の弱点だと認識しました。想像力の貧困さとか、経験の乏しさとか。to be conquered...


他にも話を聞いたりはしたんですが自分の力量では全然まとまりませんね。しばらくこのネタは寝かせてみることにします。いつの日か芽がでることに期待。

追記

実はセミナーの最後にワークショップがあったのですが、様子を見てチキンハートを発動&逃げ帰ってきました。「今日の発表で印象に残った技術を改良するために必要な技術と、その技術を持っている企業名を挙げた上で具体的な案をまとめる」なんてことは、ちょっくらハードルが高すぎる。頭も尻尾もわからん。