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温度上昇で縮む物質による熱サイクル?

普通の熱力学の教科書に載っているカルノーサイクルでは,温度が上がると膨張するような,普通の気体を作業物質にしたものが紹介されている。しかし周囲を見回せば温度の増加とともに体積が減少する物質もあちこちに見つかる。(例えば何があるだろう?続きを読む前に自分の周りを見回してみよう)
例えば氷は約4 ℃で密度が最大になり,温度を下げると体積が増加し氷へ相変化する際には体積は温度に対して不連続になる。他の例としてはゴムがあるだろう。統計力学の授業で習うように,ゴムは温度が高くなると張力が増して体積も減少する。さて問題は,こうした物質を用いて熱機関をつくったらどうなるだろうか,ということだ。
これはたとえばゴムを作業物質として,

  1. 温度T[H]の熱源に接し,熱平衡状態にあるゴムを熱平衡状態のまま伸ばす。この時ゴムはW[H]<0の仕事をし,熱 -Q[H]<0を受け取る。すなわち熱Q[H]>0を熱浴に与える。
  2. ゴムと熱源との熱接触を断ち,ゴムを断熱的に収縮させ温度T[L]とする。
  3. ゴムを温度T[L]の熱源に接触させ,準静的にゴムを収縮させる。この時ゴムはW[L]>0の仕事をし,熱Q[L]>0を熱源から受け取る。
  4. ゴムと熱源との熱接触を断ち,ゴムを断熱的に伸ばし温度T[H]とする。この時ゴムの体積(長さ)が,初期状態と同じになるようにすれば実現できる。ここで何かおかしなことが起きたりしないだろうか?

水の相転移を利用したサイクルもほとんど同様のものが構成できる。水の相転移を利用したサイクルでは,余分の圧力が加えられた状態で水の凝固点が降下するという効果が効くために,サイクルが構成できる。トムソン(後のケルヴィン卿である)が活躍した19世紀の頃には既に,凝固点の変化と圧力の関係式(Clausius-Clapeyronの式)が知られていた。実はトムソンにカルノー理論の正しさを信じさせたのが,まさにこのようなサイクルの実証実験における,凝固点変化の定量的一致だったという。実験は理論による予言を検証する形で行われた。非常に精密な実験だったという。
絶対温度の定義を見出したトムソンは非常に慎重だったそうである。見習いたい。