日本「半導体」敗戦

日本「半導体」敗戦 (光文社ペーパーバックス)

日本「半導体」敗戦 (光文社ペーパーバックス)


少し前に話題になっていた本。半導体業界の実際が知りたくて購入を決めた。この本で指摘されているのは、日本の半導体業界のシェア、主に筆者が現場において開発に関わったDRAMのマーケットにおける、90年代の日本企業の凋落の原因が、日本企業の偏った技術力の探求による、ということである。偏った技術とは、執拗なまでの高品質の探求である。このような技術探求による競争力の低下を、イノベーションのジレンマと呼ぶ。このイノベーションのジレンマのために、日本企業は低コストで高歩留りの海外企業との競争において、遅れをとる結果になった。
実はこの凋落には背景がある。筆者によれば、1980年代の半ばまでのDRAM産業における成功の味を占めた経営者が、数年おきの短いサイクルで展開されるPCその他の技術が凌ぎを削る現代の市場において、もはや無能な管理職と化しているという、ピーターの法則が起こっているのだという。
このような現状を、部分的にではあれど、打開したケースとして、日立製作所NEC合弁会社であるエルピーダメモリの実例が取り上げられている。エルピーダは設立当初、合弁会社の性質特有の経営上の問題を抱えていた。また技術の統合は考える以上に複雑で、込みあっており、コストが嵩むものであった。そして、そのコストを親会社である日立NEC両社に依存していたエルピーダは、不況により親会社の支援が打ち切られると、なんと2年間でシェアを1/4にまで落とし、社員による言葉を借りれば「地獄」と化したのだ。
しかし、この状况は、社長の交代により解決された。新社長の指導のもと、迅速な生産体制が確立し、経営が透明化され、社員の士気が向上したという。これだけではない。社長は自力で1700億円もの資金を調達し、親会社からの干渉を受けることなくエルピーダ独自の判断ができるようにした。これまで無能であった上層部に、カリスマである坂本社長が立つことにより組織が回りだしたのだ。


エルピーダの成功例はごく幸運な例の一つであると筆者は主張している。じっさい、有能な経営者の他にもエルピーダ再建にはいくつかの要因があったようであり、今後同様のケースにおいて再びうまく事が運ぶ保証はない。
現在、このような日本企業のからむ合弁会社はいくつか存在する。富士通とAMDによるスパンジョン、日立と三菱によるルネサステクノロジなどなど。これらの企業は今後生き残りをかけた経営統合が、さらに行われて行くだろう。今年2010年、NECエレクトロニクスと、ルネサステクノロジも統合予定らしいし。本社で半導体開発をしているのは東芝くらいであるが、2000年のITバブル崩壊では例に漏れず巨額の赤字を出した。日本半導体産業の利益率の低さが徒となったのだ。
この体質の改善のため、筆者はさらなる加工の微細化は不要だと主張しているが、この主張の正しさはよく分からない。筆者によれば途上国における市場拡大が、技術の向上抜きに十分見込めるというのがその理由だが、定量的に見積もってみてほしい。


最後になったけど、この本のおわりの方はちょっと筆者が調子にのって饒舌になりすぎなんじゃねと思う。問題提起から結論までの間に私感をこれでもかってくらい挟むもんだから、すげー読みづらくなってくる。世界一周旅行の話とか必要なのか?

なにはともあれ、半導体凋落を現場で見てきた筆者が肌で感じてきたことの一端を感じられる、稀有な本ではあると思う。