ワットによる知られざる発明

科学史上の通説ではクラペイロンということになっているそうだが,実際のところ史上初めて熱力学の議論においてpV曲線を用いたのは,かのジェームズ・ワットらしい。ワットは元々グラスゴー大学に出入りする道具屋さんだったそうで,化学者であり物理学者でもあったジョゼフ・ブラックなどとも親交があった。それのみならず,彼の自然哲学的なものの見方はそれなりに知られたものであったそうだ。以下は山本義隆著「熱学思想の史的展開2」からの引用。

1758年--ワット22歳の時--にワットとはじめて言葉を交わしたロビソンは「私は単なる職人だろうと思って彼に会った.しかし会ってみたら,彼は哲学者であることを知らされた」と記している。

ジェームズ・ワットはシリンダーの冷却過程を準静断熱過程にやや近づけることで蒸気機関の効率を向上させるという発明をしている。1782年の特許明細書においてpV図が用いられたのだそうだ。驚くべき発明の連続だ。ワットの蒸気機関は蒸気機関の熱効率をニューコメン型の機械の何倍にも高め,「燃料のほぼ75パーセントの節約が可能になった」そうである。炭鉱資源に乏しいフランスにおいては,自然の克服による豊かさの追求をモチベーションとした熱機関の更なる高効率化が追及された。ワットの特許が失効したのち,アーサー・ウールフが高圧機関によりワット型の低圧機関の2倍の効率を実現したことが,カルノーの熱力学研究への大きなモチベーションを与えることになったのだった。