比熱

新人研修で何度か目にした、断熱消磁を利用した冷凍機についてちょっと考えていた。
断熱消磁冷却は金属(銅)の核スピン自由度を利用した冷却だ。核スピンは磁気モーメントを持っているため、銅に対して外部から強い磁場を与えるとエネルギー的に安定な向きにそろう。核スピン自由度がバラバラな状態(ランダム状態)から秩序状態となるのであるが、これはちょうど水が氷に凝固する過程と似ている。水の例では初めは何も拘束を受けずに、それぞれ自由に動き回っていた水分子が結晶構造を作り自由度を失う。小学校で水の凝固点の測定実験をやったと思う。水は冷却するとはじめ温度が下がっていくが、ちょうどゼロ度で氷ができはじめ、温度一定となる。この時は、氷のできはじめた水を冷やし続けているにもかかわらず、温度はゼロ度を下回ることなく一定のままである。しかし冷やしているということは熱を奪っているということなので、この熱はどこに行ってしまうのだろうというと、系の秩序を生み出すところに行っているのである。言い方を変えると、水や核スピンはバラバラの状態から秩序状態となるときに熱を吐き出すということになる。断熱冷却の過程ではこうして強制的に吐き出された熱を取り去ることによって極低温を作り出している。
別の言い方もできる。系の熱容量(比熱)をCとする。熱容量というのは要するに系の自由度だから、強い磁場をかけて核スピンの自由度を殺すと、C_{磁場なし}は核スピン自由度の分だけ小さいC_{磁場あり}になる。系の温度がTに保たれているとしよう。このとき系全体のエネルギーはE=C_{磁場あり}Tとなる。ここで外場を切って核スピンの自由度を復活させる。過程が断熱的であるとすると、外界からのエネルギー流入や流出はなく、Eは一定である。したがって、系の温度はTからT'に変化して、
C_{磁場あり}T=C_{磁場なし}T' → T'=(C_{磁場あり}/C_{磁場なし})T