李陵・山月記

李陵・山月記 (新潮文庫)

李陵・山月記 (新潮文庫)

大学近くの古本屋で50円だったので買った。
正直興味なかったが「山月記?紫式部かなんか?あ、鴨長明か!」などという無教養を晒すのもそろそろやめにせんといかんということで購入に至った。しかも現金一括払いで!である。


山月記である。己を過信し、詩作に打ち込み、破滅した李徴は「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」に喰われ、虎と化した。安易な教訓をここから得ることは容易いが、これは人間の本質的な悲しさを描いた運命譚のようにも思える。「産を破り心を狂わせ」て詩作に打ち込まずにはいられなかった李徴は、"人間"であることに甘んじることができなかった。人の世に生まれた個としての二重性が悲劇の根元であり、その意味で根深く、普遍的な悲しさを持つ。
もちろんこれは芸術に心狂わせた人間のくだらなさと一笑に付すこともできるが、そこには誰もが心に飼っている虎との対峙を避けている自信への負い目があるべきであり、また反省が込められるべきと思う。

李陵。こちらもまた、漢の時代に生まれた3人の男の運命を対照的に書き記したものである。李陵、司馬遷、蘇武の三人は運命に翻弄されながらもそれぞれ苦悩しながら折り合いをつけている。李陵はこの話の主人公であろうが、それは彼が多くの読者にとって心を重ね合わせやすいからだろう。恩と義を感じながら、誇りと本音の間で揺れるのだ。
司馬遷、蘇武はまた別の葛藤を抱えていた。蘇武は運命に抗い続け報われるが、それは結果にすぎない。故に教訓にはなり得ない。天命をつくした司馬遷も充足感を感じたかは怪しいところであるが。読んでいて感じるのはやるせなさばかりだ。


他にも二作入ってるんだけど感想は割愛。まあ、何て言うか疲れた。
100ページくらいしかないくせに注釈が500近くあるので、案外分量を感じた。
まあ、間違いなくおすすめできるけど。