さいきん、物理のものの見方を素人、というか理系高校生くらいに伝えてみたいと思い始めて、それじゃどういった題材が良いかと考えたりした。一つ考え付いたのは、波という現象の見方だった。波を利用した情報伝達やコミュニケーションを、われわれはよく利用していて、非常に身近な例が挙げやすいと考えたからだ。この題材でしばらく練ってみたので、とりあえずメモ程度に置いておく。そのうち完成させてwebにでも公開したいのだけど。


学部の2年生のころ、電磁気学の授業で「携帯電話の電波の波長はどれくらいか」という問題提起があった。聞いたことがある人もいるだろうが、これは要するにアンテナの長さが大体のオーダーを与えるのだ。簡単に計算をしてみる。最近話題になっていたが、携帯電話に使われる通信電波は1.5GHz帯とか、 1.7GHzとか、大体GHzのオーダーであって、その波長は30*10^8[m/s]/1.5*10^9[/s]=20cmとなり、オーダーが一致することがわかる*1。アンテナは電波を受け共振する必要があるために、この対応は必然のものといえるのだ。
しかし、例がこれだけでは不十分だ。第一目標であった「統一的な見方」が全然提供できていない。携帯の電波は波であって、波を使った情報伝達は他にも存在する。テレビがまた別の例になるだろう。アナログ放送のテレビのアンテナを見たことがあるだろうか。八木宇田アンテナというもので、独特な形をしているから見たことがあるかもしれない。アンテナのサイズは〜数十センチ程度であるから、大雑把に言って、携帯電話の電波の10倍程度の波長の電波が使われているはずだ、といって調べてみるとドンピシャの値を持つ。確かに携帯の電波とテレビの放送波の間では「同じ物理」が潜んでいるのだ。
ここで終わりにしても良いが、もっと踏み込んでみよう。(始めは、光の波長と感光色素のサイズの対応を見てめでたしの予定でしたが、うまく行きませんでした。うぎゃー。おそらく、量子効果が効いている。)この手の話は電磁波ならば成り立つはずで、可視光を取り上げてみるのは面白いと思う。生体における受光器官は何かといえば究極的には分子であって*2この分子の共鳴する振動数の電磁波が、可視光なのだと考える。その分子はロドプシンと呼ばれるものであって、その部分にビタミンAから作られる「レチナール」という長さ1nmの*3感光部分を含む。いま、この分子の上に電子雲として偏在している電子を、井戸型ポテンシャルにつかまった電子として近似しよう。幅Lの井戸型ポテンシャルに対応する電子のエネルギーは E_{n}=\frac{\hbar^{2}}{2m}\left(\frac{\pi n}{L}\right)^{2}であった。n^2に比例した部分を除いて、Lに分子サイズ〜1nmを代入して計算を行うと、大体0.1eV程度を得る。電子がレチナール全体に偏在しているという部分が間違いであったり、レチナールの周りの分子の影響が効いているのだと思います。nの遷移を考えると、非常に大雑把ではありますが1eVのオーダーの光子、つまり可視光に対するアンテナとしてレチナールが働くことができることがわかった。

反省。波というものの見方に注目しているのに、光の量子性が効いてくるサイズの話はできない。それでも、良い問題提起にはなるかもしれないが。


(続く。こんどは音波と聴覚における共振器(蝸牛、うずまき管)についてしらべて書く。いつか)

*1:簡単なアンテナのモデルではアンテナ長λ/4で共振が起こる

*2:もちろん、素人に説明するときにはここで一つ話になってしまうが、今はスルー

*3:グラフェンの炭素間距離0.14nmから、レチナールの分子形から類推