6章 古典気体のクラスター展開(2)

去年、下書き保存していた文書がフォルダに残ってた。阿部本読みは実はまだつづいているんですねー。14章まで読み終える日はちゃんと来るんでしょうか??地道に行きましょー。

6.2 Wに対するキュミュラント展開

上に見たようにQ/V^{N}は
 \frac{Q}{V^{N}}=\langle \exp (\sum \phi)\rangle
とモーメントの形になっていたので、そのlogをとったNWはキュミュラント平均の形で次のように書ける。
 NW=\ln \langle \exp (Q/V^{N})\rangle =\langle \exp (\sum \phi)-1\rangle_{c}
右辺を展開すると \langle \phi_{\alpha}^{\nu_{\alpha}}\phi_{\beta}^{\nu_{\beta}}\cdots\rangle_{c}といった項がいくつも現れるが、この項を図形であらわすと便利になる。どのようなルール化といえば至極簡単で、それは次のようなものだ

αの粒子対に \nu_{\alpha}本の線を引き、βの粒子対に \nu_{\beta}本の線を引く。このような図形をクラスターと呼び、図形中の線はφを意味するからφ線と呼ぶ。

これからクラスターについて議論を進めていくのだけど、断らない限り次の仮定を置いておくことにする:

 \int \phi_{12}^{n}\mathrm{d}v (n=1,2,...)

これはじっさい、クーロン相互作用する気体に対して正しくないことが後でわかるんだけど、その扱いは後回しにする。ここではあまり急ぐことも目標ではないから、のんびりとクラスターの例を見ていくことにしようか。

上にあげたキュミュラントは上から、 \langle \phi_{12}\rangle_{c},\langle \phi_{12}^{2}\rangle_{c},\langle \phi_{12}^{3}\rangle_{c}に対応している。簡単すぎて不適切な気すらしてくる例だね。
さて、こういう図形を考えていった時に、次のようなつながらない図形が現れることがある。

対応するキュミュラントは \langle \phi_{12}\phi_{23}\phi_{31}\phi_{45}\rangle_{c}となる。ここで、φ_{45}というのは他の三つには表れない粒子間の結合を表しているよね。従って次が成り立つ。
 \langle \exp(\phi_{12}+\phi_{23}+\phi_{31}+\phi_{45})\rangle =\langle \exp(\phi_{12}+\phi_{23}+\phi_{31})\rangle\langle \exp\phi_{45}\rangle
これはキュミュラントじゃなくて、モーメントの式だってことに注意すれば成り立つことがわかるだろう。前章で定義したように、上の分割が成立するとき、φ12, 23, 31とφ45は独立であると言われ、これらを含むキュミュラントはゼロになるのだった:
 \langle\phi_{12}\phi_{23}\phi_{31}\phi_{45}\rangle_{c}=0
これはつまり何を意味するかというと、『つながらない図形からのキュミュラントへの寄与は0である』ということに他ならない。キュミュラントを考えるときはつながったクラスターのみを考慮すればよく、このような展開を連結クラスター展開(linked cluster expansion)というやたらとカッコいい呼び名で呼ぶ。
さて、次に考えるのは次のようなクラスタ

見てわかるように、1の分節点にハサミを入れるとクラスターは1, 2, 3からなるクラスターと、1, 4, 5から二つのクラスターに分割させることができる。このようなとき、1の点を分節点と呼び、分節点を含むクラスターを可約(reducible)なクラスターと呼ぶ。また可約でないクラスターのことを規約(irreducible)なクラスターと呼ぶ。