ボツリヌス菌

予告通りボツリヌス菌についても調べてみました。

ボツリヌス菌

ボツリヌス菌(学名:Clostridium botulinum)は、クロストリジウム属の細菌である。グラム陽性の大桿菌および偏性嫌気性菌。土の中に芽胞の形で広く存在する。菌は毒素の抗原性の違いによりA〜G型に分類され、ヒトに対する中毒はA,B,E,F型で起こる。A、B型は芽胞の形で土壌中に分布し、E型は海底や湖沼に分布する。

グラム陽性/陰性というのは、細菌を分類する上で重要な分類のひとつ。光学顕微鏡で細菌を観察する際、菌の染色を行うのだが、その際紫色に染色されるものがグラム陽性。紫色に染まらず、赤く見えるものがグラム陰性。これらの性質は細胞膜の性質による。
一般的にグラム陰性の細菌は人体にとって毒性を持つことが多い。これはグラム陽性を示す細菌は、その細胞膜にペプチドグリカンを多く含有するが、これは人体には本来存在しないものであり、免疫系が働くのに対し、グラム陰性を示す細菌では細胞膜が莢膜*1や粘液でおおわれているために、免疫系が働きづらいことに起因する。
抗原性の違いによってボツリヌス菌が分類されるのはボツリヌス毒素のまとめでもふれたとおり。芽胞はきわめて耐久性の高い菌の状態。熱、乾燥、化学的刺激だけではなくX線にも耐久性を示す。らしいぞ!

ソーセージやハムを食べた人の間に起こる食中毒であったためこの名がついた。ハムやソーセージに発色剤として添加される硝酸塩は、発色作用よりもボツリヌス菌の繁殖を抑える目的で使用されている。

これは豆知識だ。

予防と治療

ボツリヌス菌は芽胞となって高温に耐えることができるが、ボツリヌス毒素自体は加熱することで無害化する。A、B型菌を不活化させるには100℃ で6時間、芽胞で120℃で4分間の加熱が必要であるが、ボツリヌス毒素自体は100℃で1〜2分の加熱で失活される。このため、ボツリヌス菌による食中毒を防ぐには、食べる直前に食品を加熱することが効果的である。
中毒になった場合、抗毒素はウマ血清のみ(ただし、乳児ボツリヌス症では致死率が低いこともあり、一般的に使われない)。毒素の型毎に抗毒素もある。一般に「食餌性ボツリヌス症に対する抗毒素の投与は発症から24時間以内が望ましい」とされるが、24時間以上経過での投与でも効果が有ることが報告された。
ワクチンは研究者用にボツリヌストキソイドが開発されているが、中毒になってから用いても効果がない。また、米国においてボツリヌス免疫グロブリンが開発されている。

相当熱に強いらしいね。ボツリヌス毒素さえ不活化してしまえば、菌自体は消化管中でのぞかれるために食中毒になることはない。ただ、1歳未満の乳幼児は消化管が短く、腸内細菌叢が未発達であることから特有の中毒症状を起こすことがある。赤ちゃんにハチミツや野菜ジュースをあげちゃいけないのは、このため。
文中のトキソイドというのは外毒素(細胞が細胞外へ放出するタンパク質などの毒素を外毒素というのだ)をホルマリンなどで処理し、免疫原性(だから、免疫のスイッチを入れる性質)を有したまま毒性を消失したもの。不活化ワクチンは病原体そのものを不活化するために、両者は異なる概念として扱われるらしい。


とりあえず、ボツリヌスについてはこれくらいでいいや。

*1:細菌の分泌するゲル状の粘着物