万物を駆動する四つの法則

万物を駆動する四つの法則―科学の基本、熱力学を究める

万物を駆動する四つの法則―科学の基本、熱力学を究める


物理化学の教科書の著書として有名なアトキンスによる熱力学の解説書である。
このタイトルで言う四つの法則とは、言うまでもなく熱力学第1〜3法則、および2つの系のあいだの特別な状態としての平衡状態の存在をあらわす熱力学第0法則である。それらの法則について、ごく身近で具体的な例を用いて紹介している。
そしてこの本では、特に熱力学の第2法則の解説に重きを置いている。というよりもむしろ、この本はエントロピーの解説書じゃないのかとすら感じる。というのも、本文中で引用されたC・P・スノーの言葉にあるように”熱力学第2法則を知らないのは、シェイクスピアの作品を読んだことがないようなもの”なのであると言う考えを、筆者自身が持っているからである。


この本では第0法則から、第2法則まで説明をしつつ、便利な量としてエンタルピーやら、ヘルムホルツ、ギブズの自由エネルギーを導入し、その意味をエントロピーと絡めて丁寧に解説されている。その説明はごく直感的でわかりやすく、式をほとんど用いていない。(この易しい例を用いる精神は徹底していて、クラジウスのエントロピーの定義のところでは図書館と雑踏の中で「くしゃみ」をするという例を用いて、エントロピーの変化量の違いを説明している)
最終章で軽く熱力学の第3法則について触れているが、読者に想定されている知識が量子力学を含んでいないためにあまり踏み込んだことは扱っていない様子である。このことから考えるに、本の読者として意識したのは大学1,2年生の化学系、物理系の学生であるのだろう。たぶん。


このような本はやはり副読書として読むのがよいと思う。数式を用いた体系の美しさなどはこの本で味わうことができないからである。このような観点でいっても、この本はあくまでイメージを重視した本なのだ。そして、こういう本は重要だ。
ここからは完璧に自分の考えなのだが、科学は現実の社会に役に立たなくてはならない。そういう意味で具体的な数値の計算には意味があるし、数値計算にも意味があると考えている。この本で扱われるようなごく素朴なイメージも、役に立つから、好きだ。